SAILING POEMS

If you are good enough, someone will notice.

電通報2009/7/6 たかが広告されど広告

ある日お隣さんが、引っ越しでお騒がせしてすみません、とティッシュ2箱持って挨拶にいらした。ふだん買わない高級ティッシュだったので、うれしかった。箱の全面には、引っ越しサービスの広告。底まで資料請求ハガキになっている徹底ぶりだ。しかも箱の背が高いので、いつものカバーで隠すことができず、むき出しで置かれることになった。

2箱なくなるまでの間、箱のメッセージは、自然に食卓の風景に溶け込みながら、主張を続けた。こちらはサービス内容をほとんど覚えてしまった。押し売りせず、ただそこにいるだけで、むしろ感謝されながらメッセージを伝える。完璧な受け手発想が成す見事な技だ。

広告が受け手に届き、去っていくまでのドラマの脚本をあらかじめ描いておく。いつも心がけているつもりでも、あのティッシュ箱のように秀逸なシナリオに出会うと、新たな挑戦意欲を掻き立てられる。

広告に関わる仕事をしていると、広告が心を占める割合は大きくなる。だからといって、広告を中心に物事を考えていると、机上の空論で終わってしまう。なぜなら、それ以外の人たちの生活は、ほとんどが「広告」を特に意識することなく回っているのだから。