SAILING POEMS

If you are good enough, someone will notice.

電通報1999/10/25 観察眼

生後三カ月の娘が、ミルクアレルギーかもしれないと医者に言われた。慌てる私に、三人の息子を育て上げた義理の母が言った。「息子も卵アレルギーだった。でもね、本人には知らせずに、少しだけ卵の量を減らして、そっと様子を見るの」。

乳児と暮らす毎日は、「そっと様子を見る」の連続だ。言葉が通じないから、ひたすら観察する。「なぜそうするのか」を必死で想像する。すると、泣き声の違いの意味までわかるようになる。

優れた観察眼は、マーケターに不可欠な能力だ。だが、一般的なQ&A形式の消費者調査では、聞けば答えてくれるので、あれこれ想像しなくても結果が得られる。観察もおろそかになり、かすかな表情の変化を見落とす。言外に隠された真意を読み取れなくなる。本来、他者の世界を知ることは至難の業なのであり、それを忘れると、観察眼は衰える。

さらに実際の調査では、観察した事実を読み取って、何が言えるかまで昇華させなければならない。観察結果の羅列ではなく、そこから何を発見したかが重要なのだ。この機会にトレーニングも兼ねて、乳児観察から何かを見つけてみたい。

※この頃から、Q&A形式の調査には懐疑的でした。赤の他人である私が考えた設問なぞに本当のことを答えるだろうか。謝礼は、真面目に答える動機になり得るのだろうか、と。そして今は、文化人類学に基づくエスノグラフィ調査での行動観察と、購買履歴データ分析の両方を好んで用いています。ただひたすら対象者の発言や行動のありのままを観察するエスノグラフィと、「その人が実際に買ったモノ」のデータというリアルな事実を分析することは、手法としてはアナログとデジタルでかけ離れているように見えますが、いずれも「徹底観察」という点では共通しており、仮説を超える発見をもたらしてくれるのです。 I love REAL. I hate fake.