SAILING POEMS

If you are good enough, someone will notice.

電通報2000/1/31 終わりは始まり

昔から、大晦日が新年に切り替わる瞬間が好きだ。一年の終わりが、同時に始まりでもある一瞬。ほんの一瞬のことなのに、新しい年の始まりと思うだけで、何となく前向きな気分になるからおもしろい。

終わったと思った瞬間に始まる、という意外性に翻弄されるのは楽しいことだ。ジャン=フィリップ・トゥーサンの『浴室』という小説を読んだときも、意表をつかれた。浴槽で暮らす男の話だが、結末まできたと思ったら、なぜか冒頭に戻っているのだ。ページを最後までめくればストーリーは終わる、という常識を見事に覆している。

分娩台でも、終わりが始まりという体験をした。長い妊娠生活と産みの苦しみを乗り越えての出産完了は、達成感が非常に大きい。だから、産声を聞いた瞬間は、「やった!終わった!」と思ってしまう。だが、実際には終わりどころか、その瞬間こそが休むまもない育児の始まりなのだ。

もうだめだ、これで終わりだというときも、逆に何かが始まっているかもしれないと思い直してみてはどうだろう。少しは気が晴れるかもしれない。私たちにとって、ほんとうの終わりは、その生涯を閉じる時まで来ないのだから。