SAILING POEMS

If you are good enough, someone will notice.

電通報1998/10/5 説明不要で伝わる表現

遅ればせながら、映画「タイタニック」を観た。評判通りの大作だったが、思わず噴き出しそうになった場面がある。レオナルド・ディカプリオ扮する主人公ジャックが、タイタニック号の甲板から落ちそうになる上流階級の娘ローズを助ける場面。娘の手をつかみ、「僕は絶対に手を離さない!」と叫ぶ。

しかし、危機迫るこの状況の中でこのような注釈を加える人がいるのだろうか。消防士が、燃えさかる家の中に飛び込んで、「僕は今から君を助ける!」と宣言するようなものだ。かなり滑稽である。

「有言実行」の国アメリカならではのシーンとも言える。だが、万人に分かりやすく伝えようとするあまり、つい説明過多になってしまった感も否めない。人の心に強い印象を与えるのは、「説明」ではなく、行動そのものであったり、表情であったり、言葉にならない声であったりするものだ。

昔から名優は背中で演じることができると言われるように、優れたフィクションは、「説明」の存在を感じさせない。いつの日か、注釈の力を借りずに人心を揺さぶることのできる表現者になりたいものだ。