SAILING POEMS

If you are good enough, someone will notice.

電通報1997/3/3 マッパ・ムンディ

過日、中世ヨーロッパのマッパ・ムンディ(世界地図)を見た。英国ヘリフォード大聖堂所蔵のこの世界図は、円形で、エルサレムを中心にローマなどの都市や交易路が混在している。興味深いのは、想像上の楽園や怪物も同じ円の中に描かれている点だ。

この「想像的なでっちあげ」は、世界の「全体」を自らの掌中に収め、了解しようとする欲望の産物だ、と筑波大学の若林幹夫氏は『地図の想像力』の中で述べている。私なりに付け加えるならば、見えない世界、わからない世界への不安を埋めるために、想像力で架空の像を構築するのだと思う。

想像力が必要なのは、世界に対してだけではない。人に対しても同じだ。他人の本当の姿はわからない。それどころか予想外の行動をとる自分に翻弄されたりする。結局のところ、他者にしろ自己にしろ実体として把握することはできないのだ。この事実に直面して不安になるから「イメージ」で理解しようとする。その像に裏切られることもある。

それでも人は、自分の頭の中に造り上げた自己や他者の「幻像」が、より「リアル」であってほしいと願いながら生きてゆくのだ。