SAILING POEMS

If you are good enough, someone will notice.

電通報2000/8/21 歩行訓練

この夏、八十五歳の祖母が入院し、寝たきりになった。痴呆の症状も出始めたある日のこと、祖母はリハビリ室にいた。骨と皮だけの足首に一キロの重りをつけて、左右の足を交互に上げている。よく見ると、目に輝きが戻っている。うれしくなった私は、思わず隣に座り、一緒に足を上げ下げした。

家に帰ると、一歳を過ぎたばかりの娘が一人歩きに挑戦していた。二人とも同じ目標に全身全霊を捧げている。「歩きたい」という本能以外に何もない。娘に声援を送りながら、懸命に踏ん張る二人の震える足に底知れぬ生命の力を感じ、涙が止まらなくなった。

自分が老いたときはどうなっているだろう、などと思っていた矢先に、前至誠会第二病院長三神美和さんの体験記を読んだ。九十六歳の今も週一回出勤する彼女は、「老人は甘えないことが大事」という。どんなに社会的介助の態勢が整っても、自立した前向きな気持ちがないとかえって老け込む。若い世代も過保護な環境で高齢者の残存能力を奪わないでほしい、と強調する。

九十六歳の言葉には絶対的な説得力があるが、自立した心は、一朝一夕には完成しない。長生きしたときのために、今のうちから心しておこう。